2013年4月17日水曜日

秘密保持契約締結の意義~不正競争防止法の「営業秘密」の射程と秘密保持契約との関係~

日比谷ステーション法律事務所の弁護士田原です。

今日は実務で日常的に取り交わされている秘密保持契約について、不正競争防止法で保護されている「営業秘密」との関係を説明します。

不正競争防止法2条6項は、「この法律において『営業秘密』とは、秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないものをいう。」と規定し、「営業秘密」を定義しています。

そして不正競争防止法2条1項4号から9号までで、営業秘密の不正取得、不正に取得した営業秘密の使用や、不正の利益を図る目的等での営業秘密の使用・開示等が禁止されています。

したがって、秘密保持契約を個別に締結しなくても、不正競争防止法の「営業秘密」に含まれるのであれば、同法によって一定の保護が与えられます。

では、不正競争防止法による保護があるにもかかわらず秘密保持契約を別途取り交わす意義はどこにあるのでしょうか。
私は、秘密保持契約を取り交わす意義は大きく分けて二つあると考えます。
まず一つは、不正競争防止法で保護される「営業秘密」の範囲が限定的であるため、秘密保持契約によって保持すべき秘密の範囲を拡張することです。
またもう一つは、不正競争防止法で禁止されている営業秘密に関する行為が限定的であるため、同法の規定よりも禁止範囲を拡張したり、あるいは不正競争防止法ではカバーされていない行為義務(例えば情報にアクセスした履歴を記録・提出する義務等)を課すことです。

以下では、上記二つの意義のうち、前者の「営業秘密」の範囲について説明します。

上述のように、「営業秘密」の定義は不正競争防止法2条6項で定められています。
「営業秘密」の定義を分解してみると、「営業秘密」に該当するためには次の条件が揃うことが必要なことが分かります。

  1. 秘密として管理されていること(秘密管理性)
  2. 事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であること(有用性)
  3. 公然と知られていないこと(非公知性)

上記三つの条件のうち、2.の有用性は、「財やサービスの生産、販売、研究開発に役立つなど事業活動にとって有用なもの」であることが裁判例で必要とされています(東京地裁平成14年2月14日判決)が、その範囲は比較的広範囲に及ぶと考えられます。
また3.の非公知性については、当該情報が刊行物等に記載されておらず、保有者の管理下以外では一般に入手できない状態にあることが必要ですが、問題となる情報が一般に入手できることは少なく、実務上問題となることは少ないように思います。

「営業秘密」に該当するかどうかで実務上最も重要な条件は1.の秘密管理性の有無です。
秘密管理性に関する裁判例の傾向としては、以下の二つの要素を中心に検討して秘密管理性の有無を判断しているといえます。

  1. 情報の秘密保持のために必要な管理をしていること(アクセス制限の存在)
  2. アクセスした者にそれが秘密であることが認識できるようにされていること(客観的認識可能性の存在)

そして、上記二つの要素を判断するにあたっては、以下のような事情の有無が秘密管理性の認定を左右することとなります。

  • アクセス権者の限定
  • 施錠されている保管室への保管
  • 事務所内への外部者の入室の禁止
  • 電子データの複製等の制限
  • コンピューターへの外部者のアクセス防止措置
  • システムの外部ネットワークからの遮断
  • 書類への「秘」の押印
  • 社員が秘密管理の責務を認知するための教育の実施
  • 就業規則や誓約書・秘密保持契約による秘密保持義務の設定等
  • 情報の扱いに関する上位者の判断を求めるシステムの存在
  • 外部からのアクセスに関する応答に関する周到な手順の設定

実際に秘密管理性が争われた裁判例において秘密管理性が肯定された割合は比較的低く、秘密管理性が肯定された裁判例の割合は30%を下回っているといわれます(平成22年1月末現在における経済産業省の調査報告より)。
したがって、不正競争防止法の「営業秘密」として保護を受けるためには情報管理に関する人的・物的体制を十分に整える必要がありますが、現実に情報管理体制に充てられる人的・物的資源には限りがあるのが多くの会社の実情かと思います。

そのため、実務上は、取引当事者間や会社と従業員間、会社と取締役の間などで秘密保持に関する契約書を締結し、不正競争防止法で保護されない範囲の企業情報についても、外部に漏洩することや目的外での利用を禁止することが多いのです。

もっとも、秘密保持に関する契約書のリーガルチェックをしていて日頃気付くことですが、保持しようとする秘密情報の定め方が不適切であったり、契約で定める秘密情報の取扱い方法が不適切であることにより、秘密保持に関する契約書で達成しようとしている目的を十分に果たせない内容の契約書ひな型がしばしば見受けられますので、契約書の文言には十分注意し、事案に適合した内容となっているか丁寧に検討する必要があると思います。


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