2013年4月18日木曜日

取締役報酬の減額~パナソニック役員報酬削減発表を受けて~

日比谷ステーション法律事務所の弁護士田原です。

昨日のニュースになりますが、パナソニックが今年7月からの役員報酬を削減(社長・会長は2012年度の水準から半減、他の役員は2割削減。ただし、報酬削減は既に昨年11月から開始されており、今回は社長・会長の削減幅拡大と他の役員の削減維持が決まったもの。)することが発表されました。
パナソニック経営陣による上記役員報酬削減の判断は、同社が2期連続で7000億円超の赤字が見込まれる状況において経営責任を明確にするためのものであり、報酬削減による不利益を受ける取締役らの自主的な判断といえます。

では一般論としては、株式会社の取締役の報酬減額はどのような場合に許されるのでしょうか。
今日は、株式会社における取締役報酬の減額に関する会社法上のルールを説明したいと思います。

まず原則論ですが、定款の定めや株主総会決議によって一旦取締役報酬が具体的に決定された場合、その報酬の内容は会社と取締役との間の契約の内容となりますので、たとえその後に株主総会で減額の支給を行ったとしても、当該取締役本人の同意がない限り、報酬額を減額することは許されません。

もっとも、一旦取締役の報酬が決定されたとしても、任期途中で当該取締役の職務に大きな変更があり、実際に行う業務内容や業務量と取締役報酬とのバランスが合わなくなる場面も発生します。
このような場合、会社の立場としては、職務内容の変更を理由として取締役報酬の減額を主張したいところでしょう。
しかし、最高裁判所(平成4年12月18日第2小法廷判決)の判決は、以下のように判示して、著しい職務内容の変更があった場合の報酬減額を否定しました。

株式会社において、定款又は株主総会の決議(株主総会において取締役報酬の総額を定め、取締役会において各取締役に対する配分を決議した場合を含む。)によって取締役の報酬額が具体的に定められた場合には、その報酬額は、会社と取締役間の契約内容となり、契約当事者である会社と取締役の双方を拘束するから、その後株主総会が当該取締役の報酬につきこれを無報酬とする旨の決議をしたとしても、当該取締役は、これに同意しない限り、右報酬の請求権を失うものではないと解するのが相当である。この理は、取締役の職務内容に著しい変更があり、それを前提に右株主総会決議がされた場合であっても異ならない。」

以上のように、取締役本人の同意がない限り、一旦決定された取締役報酬を減額することはできません。
しかし、ここでいう「取締役本人の同意」には、明示的な同意だけではなく、黙示の同意も含まれると考えられています。
そのため、以下のような場合には、取締役本人の黙示の同意があるとして報酬減額が許されることがあります。

  1. 会社と取締役とが締結する取締役任用契約の中で、会社が一定の場合に一定の範囲内で報酬減額することを認める合意をしている場合
  2. 取締役報酬が個人ごとではなく役職ごとに定められ実際に役職を基準として報酬が支払われている会社であることを、当該取締役が知った上で取締役に就任した場合

上記のような場合には、当該取締役は職務内容や役職に変更があった場合には報酬減額がされることを認識し、予め減額について黙示的に合意していたと認める余地がありますので、報酬減額が有効なものとして認められる可能性があります。

ただし、上記に該当する場合であっても、1.においては取締役任用契約の報酬減額に関する定めが明確なものかどうか、また2.においては役職変更による報酬減額の慣行が認められるかどうか、役職変更が正当な理由に基づくものであるかどうかなどによって、報酬減額が有効なものとなるかどうかについて判断が分かれるものと思われますので、結局は個別の事案ごとに慎重な判断が必要といえます。

なお、取締役の職務内容の変更に伴う報酬減額問題に対応する手段の一つとして、取締役報酬を年度ごとに決定する取扱いに改めるというものがあります。
このように年度ごとに取締役報酬を決めていれば、もし取締役の職務内容に変更が合った場合には、翌年度の報酬はそれに見合った金額に減額した総会決議を行うことで、適法に報酬減額が可能となります。


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