2013年4月19日金曜日

株式併合の手法を利用した少数株主排除(スクイーズアウト)は適法・適切か~同族会社における事業承継のケースを念頭に~

日比谷ステーション法律事務所の弁護士田原です。

今日は、事業承継の場面においてよく課題となる後継者への株式集中の手段として、株式併合の手法を利用することが適切かということを考えてみたいと思います。

日本では、多数の親族に株式が分散保有されている株式会社が多く見られます。
これは、会社創業者が100%株主であったところ創業者の死亡によって複数の法定相続人に法定相続分通りの割合で株式が分散承継されることや、一族の感情的な対立に配慮して親族に公平に分散贈与すること等によって生み出されることが多い現象です。

このように同族会社で多くの親族に株式が分散している状況は、一方では多様な意見が会社経営に反映されることによって会社発展に寄与することもありますが、他方では会社経営者による機動的な会社経営を困難にする場合もあります。

特に、現経営者(例えば創業者の長男。代表取締役社長)が後継者(例えば創業者の孫であり社長の長男)に事業承継しようと考えている場合、後継者が円滑に会社経営を行うためには、少なくとも過半数、可能であれば3分の2以上の議決権の株式を後継者に集中させることが必要となります。

このような、後継者に株式を集中させたいというニーズに基づく法律相談は当事務所にも多く寄せられています。

後継者に株式を集中させる一般的な方法としては次のようなものが挙げられます。

  • 他の株主から後継者が任意取得する
  • 後継者を引受人として募集株式を発行する
  • 会社が他の株主から任意取得する
  • 全部取得条項付種類株式を活用する
  • 株式併合を行い少数株主の株式を1株未満の端数にする

今日は上記のうち株式併合を利用する方法について検討します。

株式併合とは、数個の株式(例えば100株)を合わせてそれより少数の株式(例えば1株)とすることをいいます。
そして、株式併合を行うためには、株主総会において取締役が株式併合を必要とする理由を説明し、株主総会の特別決議で併合の割合と株式併合の効力発生日について決議する必要があります(会社法180条)。

株式の併合によって1株未満の端数が生じた場合には、会社は、その端数の合計数に相当する数の株式を競売し(裁判所の許可を得て会社が買い取る方法もあります)、売得金を従前の株主に分配します(会社法235条、234条2項~5項)。
つまり、株式併合によって1株未満の端数しか保有しなくなった株主は、金銭を得る代わりに株式を失う結果となります。
したがって、たとえば、発行済み株式総数3000株の会社で、Aが2000株、Bが500株、Cが300株、Dが200株をそれぞれ保有している状況において、「1000株を1株とする」という株式併合が行われた場合、Aが2株保有するほか、BCDは全員1株未満の端数しか保有しなくなりますので、結局BCDには対価が交付されますが株式は失うこととなり、会社の株主はAのみとなります。

このように、株式併合はその併合の割合を調整し、少数株主の株式が1株未満の端数となるようにすることで、実質的に少数株主排除(「スクイーズアウト(締め出し)」とも呼ばれます)の手段とすることも可能だと考えられます。

それでは、このように、少数株主を排除することを目的とした株式併合には法律上問題はないのでしょうか。

まず、多数派株主(上記の例のA)は、少数株主(上記の例のBCD)を株式併合によって排除した場合、単独株主として会社の支配権を取得することができ、株式併合を行うことに独自の利益があると評価する余地がありますので、「株主総会の決議について特別の利害関係を有する者」(会社法831条1項3号)に該当する可能性があります。

そして、併合の割合が極端で、一部の大株主を除く大半の株主が株式を失うような場合には、その株式併合は株主平等原則違反と評価される余地があります。

これらのことを考慮すると、多数派株主による少数株主排除を目的とした株式併合に関する株主総会特別決議は、「特別利害関係人の議決権行使による著しく不当な決議」であるとして、株主総会決議取消請求の対象となる可能性があります(会社法831条1項3号)。

株式併合は、株主総会の特別決議を成立させるだけの議決権を確保している場合には、比較的簡単な手続で少数株主排除とそれによる後継者への議決権集中を達成することができる選択肢のように思えますが、上記のようなリーガルリスクを考慮すると、その利用には慎重さが必要であると考えます。


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