2013年6月19日水曜日

不正な行為を行う取締役を解任するには~取締役解任の訴え~

日比谷ステーション法律事務所の弁護士田原です。

今日は株式会社の取締役解任の訴えについて解説します。


・取締役解任2つの方法

株式会社の取締役が職務執行に関して不正な行為を行ったり法令・定款に違反したような場合、
会社は当該取締役に対して損害賠償の請求を行うができます。
また不正行為を行うことが事前に判明している場合には当該行為の差し止めを行うことも可能です。
しかし、取締役が日常的に不正な行為を繰り返し行っている場合に、個別の不正行為に対して事前の差し止めや損害賠償請求を行うのではきりがないという状況も多く見られます。
そのような場合、取締役による不正行為に個別に対応するのではなく、当該取締役を解任するほうが事態の解決として効果的であるということがあります。

取締役を任期途中で解任する方法としては以下の2つの方法が挙げられます。
  • 株主総会で取締役の解任を決議する
  • 取締役解任の訴えを提起し裁判所の判決で解任する

・取締役解任の訴えを選択すべき場合

上記2つの方法のうち、株主総会の決議によって解任する方法は、取締役の解任を考えている株主自身が過半数の株式を保有している場合や、株主の中に協力者がいて議決権の過半数を確保できるような場合には利用が可能です。
しかし、解任対象の取締役を支持する株主が多数派であるような場合には取締役の解任決議が株主総会で通りませんので、この方法をとることはできません。

そこで、解任すべき取締役を支持する株主が多数派であるような場合には、2つ目の方法である取締役解任の訴えを提起するという方法を選ぶこととなります。


・取締役解任の訴え提起のための3要件

取締役解任の訴えを提起するためには、以下の3つの要件をすべて充たす必要があります。

  1. 取締役が職務執行に関して不正行為や法令・定款に違反する重大な事実があったこと
  2. 株主総会で取締役解任決議が否決されたこと
  3. 原告が総株主の議決権の100分の3以上の議決権又は発行済み株式の100分の3以上の数の株式を保有していること(公開会社の場合には訴えの提起の日から逆算して6か月前から株式を保有していることが条件となる)


・取締役の不正行為・法令・定款に違反する重大な事実

会社法854条第1項は「役員の職務の執行に関し不正の行為又は法令若しくは定款に違反する重大な事実があった」ことを取締役解任の訴えの要件としています。

不正行為の典型的なものとしては、会社の財産を私的に費消しているような場合があり、実際の裁判でも取締役個人の会社の財産を混同して管理していたケースにおいて、不正行為の存在を認めたものがあります。

また法令・定款違反の重大な事実としては、取締役が特別な理由もないのに株主総会を何年も招集しなかったような場合が挙げられます。


・株主総会で取締役解任決議が否決されたこと
会社法854条第1項は「当該役員を解任する旨の議案が株主総会において否決された」ことを取締役解任の訴えの要件としています。

この要件を字義通りにとらえると、定足数の出席を得て解任議案を上程し審議がされたものの決議が否決されたことが必要とも考えられますが、これでは多数派株主が株主総会をボイコットすることで取締役解任の訴えを妨害することができてしまうため、定足数不足によって株主総会が流会となったような場合も含まれるものと一般に解されています

他方、単に解任対象とする取締役を支持する株主が多数派であり、株主総会に解任議案を付議しても承認決議がされる見込みがないというだけでは、本要件を充たしたことにはならないと解されています。


・一定数以上の株式・議決権の保有

取締役解任の訴えを提起するためには、総株主の議決権の100分の3以上の議決権又は発行済み株式の100分の3以上の数の株式を保有していることが必要となります。

保有議決権割合・株式割合の計算に当たっては以下の点に注意が必要です。

まず「総株主」からは、当該取締役を解任する旨の議案について議決権を行使することができない株主及び当該請求に係る取締役である株主が除外されます。

また「発行済株式」からは、会社自身が有する株式及び当該請求に係る取締役である株主が有する株式が除外されます。


・取締役解任の訴えを提起する前に検討すべきこと

取締役解任の訴えが裁判所で認められた場合、当該取締役は判決の効力として取締役の地位を失うことになります。
しかし、会社法上、解任判決によって取締役の地位を失った者についても株主総会で再度取締役に選任することが許されています。
そのため、解任された取締役自身が大株主であるような場合や多数派株主の支持を得ているような場合には、解任の効果は一時的なものにとどまり、解任を行うだけでは抜本的な解決とならない場合もあるといえます。

取締役解任の訴えを提起する前には、会社の株主構成等にも目配りをし、解任の訴えが事態を解決するために有用な方法となるのかどうかをよく考慮する必要があります。


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